スキル〖魅了無効〗を獲得しましたが、甘い言葉に溺れたい〜溺愛?何それ、美味しいの?〜
国王様の悪知恵
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鼻腔を擽る独特な甘い花の香りが充満する、微かに薄暗い見知らぬ部屋に気がついたら立っていた。
私には到底似合わない豪華絢爛な風景は何処にもなくて、しんとした静かな空気が私を包む。
あれ……私、確かセドリックと一緒に舞踏会に参加して……それで――。
なんでこんな場所に居るのかを思い出そうと、記憶の糸を辿る途中、手に感じていた温もりが私から離れた。
離れた温もりの正体を確かめるように視線を動かすと、またしても息を呑んだ。
艶やかな、まるで夜空のような綺麗な黒髪が、微かに部屋に入ってくる光によって煌めいた。
全てを見透かすような切れ長の目の奥で、エメラルドのように綺麗に輝くその瞳は、一瞬だけ私を捉えるけれど、すぐ様目を逸らした。
鼻筋の通った綺麗な顔立ちだというのに、眉間に刻まれたそのしわのせいで、少々近寄り難さを滲み出している。
絵画の中から飛び出してきたかのような、美しさを持つ男性に思わず見惚れていると、男性は何も言わずに私に近づいてくる。
「えっ、あの――」
状況についていけないあまり、戸惑いを隠せない私は慌てて男性との距離を離そうと、後ずさった。
慣れない格好をしている、ということを忘れて。
「きゃっ……!」
高いヒールに動作を遅らせるドレス、普段とは違う身体の動きについていけなかった私は、そのまま綺麗に後ろへと倒れる。