スキル〖魅了無効〗を獲得しましたが、甘い言葉に溺れたい〜溺愛?何それ、美味しいの?〜

優しい香りに包まれて








「っ……!!」


 肩で呼吸するように大きく息を吸って、私は現実に戻るように飛び起きた。

 広すぎる部屋に置かれた天蓋付きの寝台の中で、バクバクとうるさい心臓を抑えながら辺りを見渡した。

 見慣れない空間に、ほんのりと優しい香りが漂ってくる。

 これも夢の中なのかと疑って、そっと寝台を出て、登りはじめた朝日の光が差し込む窓へとそっと近づいた。


「あ……」


 広がる光景に思わず声を漏らして、目に映り込む見事な景色に見入ってしまう。

 規則正しく立ち並ぶ家々を、舗装された道が取り囲み、ちらほらと見える鮮やかな緑がその街を彩っていた。

 見える景色と優しい香りに、落ち着きを取り戻した私は、ここが夢じゃないということを冷静に判断できた。

 そうだ、私……レイバート様とこのお城で生活することになったんだった。

 舞踏会の後、そのままお城に用意されていたこの部屋を与えられ、レイバート様はゆっくりと好きに過ごしていいとだけ残して、どこかへ行ってしまった。

 先程まで見ていた悪夢を頭の隅へ追いやるように、昨日のそんな出来事を思い出しながら、そっとため息をついた。






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