スキル〖魅了無効〗を獲得しましたが、甘い言葉に溺れたい〜溺愛?何それ、美味しいの?〜
こう思うとレイの方がタチが悪い。
私は実験台なんかじゃないのに。
そういう気持ちを込めて、直接文句を言えない代わりに、口を小さくへの字に曲げた。
「――ただ緊張を解すために、ここに連れて来たかったんだ」
あれだけ私のことを見透かすように顔を覗いてきたというのに、そう言うレイはそっぽを向いて小さく呟いた。
よく聞き取れず、どう反応していいか分からずにいると、道の先の地面が唐突に輝いた。
「失礼致します。我が主人《マスター》」
鈴の音色を聞いているかのような、軽やかな優しい声が、私達以外誰も居なかった庭園に響く。
視線を声のする方へと動かせば、そこにはメイド服に身を包んだ一人の女性が立っていた。
艶やかな栗色の長い髪を青いリボンで一つにまとめあげ、トパーズのような煌めきを持つ瞳には、長い睫毛の影が落ちていた。
鈴の音色のような声には似合わない、常に真っ直ぐな口元のせいで、彼女の感情はいまいち分からない。