スキル〖魅了無効〗を獲得しましたが、甘い言葉に溺れたい〜溺愛?何それ、美味しいの?〜


 結局ユツィーとの距離感は縮められず、苦しい日が終わりに近づこうとしていた。


 部屋に用意された夕食を一人黙々と食べながら、夜に飲み込まれていく王都を眺めた。


 なんか、人肌恋しい。


 温かいご飯なのに、とっても冷たい。


 お城で出される高級な食材が使われた食事に対して、そんなこと思うのはどうかと思うけど……味がしない。



「はあ……」



 ユツィーは食べ終わった食器を音も立てずに片付けて、今度はお風呂の支度に取り掛かっていた。


 こんな生活が毎日続くのは、ちょっと苦しい。


 かといってレイにその不満をぶつけるのは、わがままな気がして言えない。


 風呂場に続く扉の隙間から湯気がチラチラと顔を覗かせては、優しい花の香りを乗せてやって来る。


 その香りに、やはりユツィーが嫌な人だとは思えなかった。


 彼女との間にある壁を取り除ければ、きっといい関係になれる……そう思うのはどうしてだろう。


 トクンと一つ心臓が跳ねて、頭の中の古い記憶達がネジを巻いて動き出した。







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