悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~
アメリアがわたわたと伝えても、クラークは訝しがっている。

「お前は、一体何を心配しているのですか? 心配せずとも、殿下はお前に夢中ですよ。よそに目を向けている暇もないくらいに」

それだとおかしいのだ。自分は婚約破棄されるはずの悪役令嬢で、メインヒーローである第二王子エリオットは、ヒロインのソフィアと恋に落ちるはずなのに。

――そうすると、彼が『好きになった』のは私だけなの?

そんなの嘘よ、とかぁっと熱くなりながら思った。頭がこんがらがって、アメリアは当のエリオットがそばにいるのも思い出せないまま叫ぶ。

「殿下が私に夢中だなんて、ありえないの! だって、彼はきっと、彼女みたいな子がタイプのはずで、私なんて――」

どうしてか、アメリアは想像して目が潤んでしまった。

自分なんて彼に必要とされない。そう続けようとした言葉は、不意にエリオットに抱きしめられて途切れた。

「俺は髪の一本まで、お前しかいらないが」

耳元で囁かれて、アメリアはドキドキした。みるみる体温が上がっていくのが分かって、猛烈な恥じらいで令嬢言葉も出てこない。

「たくさん人が見ているのに、やだ」

「確かに。兄上達が主役の場で、俺が目立つなどと思って控えていた――が、とはいえ、この騒ぎでは目立たない」

何がと問おうとしたのに、より抱きしめられてしまった。

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