悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~
前で待っている部下に声をかけられて、エリオットはハタとした。

自分が考え込むなんて、らしくない。アメリアについては、社交デビュー前から同性の印象が悪かったところを考えると、一つの可能性が浮かんだ。

「彼女は、早速何か問題でも起こしているのか?」

そう尋ねたら、部下達が揃って妙な表情をした。

「いえ? もっぱら最近の噂だと、『女神に笑顔を授けた気高き方だ』と言われたりしていますよ」

「はぁ?」

「俺もよくは知りません」

思わず訊き返したエリオットを前に、近くから答えてきた部下が「すみません」と困惑した顔で答える。

すると別の書類を持ってきた男が、それをエリオットの前に置きながらこう続けた。

「殿下のご婚約者様は、評判も上々のようです。最近耳にした話ですと、あの麗しい孤高の近衛騎士隊長とよく一緒にいて、大層絵になる光景だったとか」

婚姻活動の一環か?

そう咄嗟に思ったエリオットは、まさかなと可能性を否定した。彼が知る限り、孤高やら冷徹やら鬼上司と言われている近衛騎士隊長、クラーク・バトスは、女性嫌いのうえ、人間を寄せつけないタイプの仕事人間だった。

その時、次の部下の言葉が耳に入って、エリオットの余裕は飛んだ。

「クラーク近衛騎士隊長殿は、廊下の柱の影に隠れて彼女の肩を抱き寄せ、しばらく言葉を交わしてかなり親しげだった、という目撃情報も上がってますよ」

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