悪役令嬢ですが推し事に忙しいので溺愛はご遠慮ください!~俺様王子と婚約破棄したいわたしの奮闘記~
「ごほっ」

「それから『もしものことがあったら結婚してもいい』と話していた、というのをメイド達がどこからか耳にしたとかで、きゃあきゃあ話しておりました」

テーブルで業務処理作業にあたっていた部下が、手元を淡々と動かしながら、しれっと口を挟む。

「待て。俺が婚約者であるのを知っていながら、『きゃあきゃあ』だと……?」

エリオットの腰が、思わず椅子から浮く。

それを見た書類待ちの男が、「まぁ、噂なので盛られている部分もあるかと」と言いながら、着席を促して彼を長椅子へ戻した。

「恐らくは、クラーク近衛騎士隊長のファンでもあると思います。かなりクールで死語も少ないですし、プライベートな風景が見れて『グッジョブ婚約者様』みたいな?」

「……つまり、奴のファンからの評判もいい、と?」

「そのようです。表情が豊かで毎日楽しそうにされているところでも、周りの評判は上々のようです。俺も昨日見かけましたが、笑顔が無垢で可愛らしい方ですよね。殿下が惚れただけあるというか。彼女の兄上様が、溺愛しているだけあるなぁと思いましたね」

――同意を求められても、無垢な笑顔、なんて知らない。

エリオットは、答えられないまま考え込んでしまった。表情がころころ変わるだとか、楽しそうだったと言われても想像できない。

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