今宵、彗星
(仮置き)第二章 交わり
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第二章 交わり

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ー臼井彗(ウスイ ケイ)模木彗(モギスイ)ー
時は午後5時半。
××商店街のシンボルの時計台の下に2人の男女の姿があった。

1人は胸の下位の長さの髪の毛を左に流し緩く縛り、黒のハイネックにパーカーとジーパンという出で立ち。
もう1人は綺麗にセットされた短髪に、白のTシャツに黒のワイシャツを羽織りジーンズという出で立ちだった。
傍から見れば前者が「男女」のうちの女。後者が男だと思うだろうが、生物学的には違っていた。前者が男であり、後者が女だ。

「ねえねえ、次はさ新しく出来たパンケーキ屋さん行こうよ」
女の格好をした男、ケイが話しかける。

「ん、いいよ〜。本当、甘いもの好きだよね、ケイは」
と、今度は男の格好をした女、スイが返事をする。

「何時も私の行きたいところ行っちゃって悪いとは思ってるけど、でも甘いものには逆らえないもん!!」
溌剌とした笑顔。異論は認めないといった態度で言い放つ。
その顔をみて、
「しょうがないなぁ」
とスイも笑う。

2人で目当てのパンケーキ屋をスマホの地図アプリで調べ、そこへ向かって足を進ませる。

2人とも本来の自分でいられる少ない時間、自分を偽らないですむこの時間を楽しんでいた。


ー臼井彗(ウスイ ケイ)ー
自分は今のこのかけがえのない時を楽しんでいた。
だがどこかで、明日からはまた嘘をつき続け偽りの自分を演じなければいけないのかと言う考えが頭をよぎる。

出来れば僕だってありのままの自分でいたい。

それはもう時々行くカラオケで必ず「レット・イット・ゴー」を熱唱するくらいには。(僕には友達というものがスイ以外いないので1人だが)
家族に言ったら、お母さんは唯でさえ制服を必ずと言っていいほど毎日汚してくる息子のことを心配しているだろうに、性別が合わないなんて伝えてみれば、泡でも吹いて倒れるのでは無いかと思っている。
お父さんは昔から息子とキャッチボールすることが夢だったTheスポーツマンパパだ。
きっと否定はしないものの悲しむだろう。(因みにキャッチボールをするという夢は一応叶ったものの散々だった)

2人には愛情をたっぷり注いでもらったと思っている。
厳しい時は厳しいが、それは必ず僕を思う心がある故だと。
それなのに「女の子になりたい」なんてとても言えない。

ダメだ、ダメだ、今はせっかくスイと一緒に出かけてるんだから、、、

マイナスな思考をとっぱらい、目の前のパンケーキに集中する事にした。
スイとネットで調べて足を運んだパンケーキ屋さんはチェーン展開している王手の店で、味は安定的な美味しさで見た目も可愛かった。
僕はチョコ、スイはプレーンを選んだ。
パンケーキの味にも性格が出るんだなぁと感じる。

誰に見せる訳でもないが最早義務なのではないかと思い、パンケーキを写真に収めふと考える。

今、僕達はどう見えているだろうか。

変に思われていないだろうか。
ついさっきマイナス思考には歯止めをかけたのに、もうこんな事を考えている自分が情けなかった。
「ねぇ、スイ。私たち大丈夫かな」
何が、とは言わなかった。
スイも充分わかっているはずだから。
安心したい。大丈夫だよって言って欲しい。
僕には全然自信が無かった。


ー模木彗(モギスイ)ー
「ねぇ、スイ。私たち大丈夫かな」
この質問をケイは毎回する。
この木曜日のお出かけの日に、毎回。

ケイは不安なんだと思う。
自分たちがどう見えているか、普通の人に見えているか。

私は知っている。ケイがいじめにあっていること。平気なフリをしているけど本当は辛くて毎日泣きたいこと。
気付いているならば助けてやればいい。
だがそれは出来なかった。
幸せな時間を壊したくなかった。ケイにとっても私にとってもこの時間は侵すことのしたくないものだったから。

ケイは強がりだ。そして自分の弱みを見せたがらない。
「辛い」とか「苦しい」とかそんな言葉がケイの口から放たれることは無かった。
でも、平気なはずがないと思う。
私は周りにジェンダーレスを隠して生きている。
それは知られたところで理解なんてして貰えないしそもそも理解されたくもないという考え方だから。

きっとマミとアヤならこう言ってくれる。私たちは気にしないよって。
でも、果たして本当にそうだろうか?気にしないと口では言っていても、本当はどう思っているかなんて確かめる術はない。
気持ち悪いと思われるかもしれない。
そこまで思わずとも「普通じゃない」とは思われるだろう。
それがとにかく嫌だった。「今まで通り」を壊したくなかった。

結局私はいつもケイの質問に
「そうだね、、、大丈夫、だよ」
としか返せない。

私はふと、ケイのいじめの事に干渉「出来ない」のでは無く「あえてしてない」だけなのかもしれないと思った。


ー坂口宵(サカグチ ヨイ)ー
放課後、何時もの癖で電話を掛けそうになった。
やっぱりそう簡単に習慣って言うものは変わらないんだなと学んだ。この世の中には学ぶものが多い。

結構、好きだった。もう過去の人となってしまったが。

俺はゲイだが、誰でもいいって言う訳でもない。出会いは少なくてもいい人と巡り会えたらそれでいいと思っている。
きっと俺は探しているんだと思う。
先生の代わりを。
随分昔の事なの思い出補正がかかっている部分もあると思うが、本当に好きだった。
今まで色々な人と関係を持ったが先生の時のような下心の全くない純粋な気持ちは未だに抱けていない。
男同士って言うだけで純愛、とは程遠い恋愛を送る場合も多い。
普通が良かった。普通に女を好きになれればよかった。
そう思ったことは何度もある。何度もあるが、その願いが叶うことは無かった。

やることが無くすっぽりと空いた暇な時間、どう潰そうかと考えていたら見慣れたやつの姿があった。
いや、格好は見慣れては居なかったが毎朝教室に入った時に真っ先に目に入る人。

見間違うはずがない。

髪型、服装全てが自分の知っている彼と異なっていたが勘とでも言うのだろうか、が働く。

声をかけようとした。が、俺の口から言葉が発
せられることはなかった。

その理由は2つ。

1、自分と彼は実際直接的な関係は何も無いこと。強いて言うと、クラスメイトと言うだけだ
2、彼がスマホに落としていた視線をパッ!と挙げとても嬉しそうな声で
「スイ!」
と言って言葉を送った人物へと手を振ったこと
彼と同じ人物へと視線を送る。
そこには小柄な彼よりほんの少し背の高い、顔の整った男がいた。
名前を呼ばれたその男は足元に落としていた視線を上げ、彼に駆け寄る。
「待たせちゃったかな?ごめんね」
予想よりワントーン高い声が男の口から放たれた。

なぜ彼がここに?
なぜ女の格好を?
あの男は誰?
そもそもあれは俺の知っている彼なのだろうか?
それとも別人か?

情報量が多く、長い時間考えがまとまらなかったが何とかひとつの結論へたどり着いた。

彼は女装癖があった。

相手の男は彼氏。

そして、彼がいじめられているのはアイツらがこの事を知っているから__

視線を彼らのいた方へと戻すともう姿はなくなっていた。
まるで存在していなかったように、自分が見間違ったかのように。
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