今宵、彗星
ー臼井彗(ウスイ ケイ)ー
トイレの濁った水を被った僕は保健室へと行き、考えてあったセリフを淡々を言ってシャワー室を借りた。

体を清めていざ教室へという廊下の途中で見つかった。奴らに。

今日はいつもと時間が違うので捕まらないかなと思ったけれどそれは誤算だったようだ。昨日と変わらない嫌な笑みを浮かべて奴はいった。
「パン買ってこいよ」
と。バカなのか?いや、馬鹿なんだろうな。何故パンなんだ。うちの学校はやけにおにぎりに拘りを持っていて、
「あったか、おにぎり屋さん」
という巷で有名なお店から直接卸しているだろうに。それなのになぜ、パンなのか。
答えは案外簡単だ。
「おい、おにぎり買ってこいよ」
より
「おい、パン買ってこいよ」
の方が格好がつくからである。まぁ、僕としてもそんな悪い顔をされながら
「おにぎり買ってこいよォ」
なんと言われても吹き出してしまうがオチなので良いのだが。

それから僕は大人しくパシられ、休み時間にはトイレに連れ込まれ5人くらいからリンチを受けた。
まぁ、いつも通りのことだ。
でも今日は何時もより酷いかもしれない。トイレに連れ込まれるとは、なんだ、AVものか、と笑ってしまいそうになる。

しかし体の痛みは笑っては居られない程で少し、ほんの少しきつかった。

さて、どうしていじめられているのにお前はそんなに飄々としているのだ。と思われる方もいるかもしれない。それには3つ理由がある。

1つ目、慣れた。
高校に入って数ヶ月で今のいじめグループに巡り会い、標的にされた。まぁ、こちらも「いじめられなれ」をしたということだ。今じゃちょっとやそっとでは驚かない。

2つ目、いじめなんてくだらない事で悩んでいるのが馬鹿らしくなったから。
これはまぁ1つ目と似通ったところがある。僕だって初めの頃は悩んだ。死にたいという言葉も意識した。でもある時すっと、くだらないと思った。
人をいじめて何が楽しいのか。人の苦痛に歪む表情を見て何が楽しいのか。僕には何一つ分からない。わかる努力もする必要が無い。そう判断した。

最後に、癒しの存在。
最近知り合った僕と同じジェンダーレスの人。その人と一週間に一回、木曜日だけ2人で出かける。その人に出会った日から僕にとって木曜日は特別なものとなった。楽しみだな。

胸を高鳴らせて見た教室の隅のカレンダーの今日の日付は「Thursday」の欄にあった。
< 8 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop