今宵、彗星
ー坂口宵(サカグチ ヨイ)
△△先生のことを考えていたら学校に遅れそうになって少しだけ焦った。
遅刻は成績に響く。
それだけは勘弁願いたい。

予鈴ギリギリというところで教室へ入り1番初めに目に入るのは、他でもない彼だった。

周りはみな制服だと言うのに1人だけジャージに身を包み、無表情で外を眺めている小柄な男。

彼がなぜジャージなのか。
答えは存外難しくない。彼はいじめられていた。

恐らく登校してきた時に玄関で水をぶっかけられたとかだろう。今日も昨日も雨は降っていなかったのに玄関前のアスファルトは不自然に1部分だけ濡れていた。そして彼の髪の毛も湿っているように見えた。

「いじめに気づいているならば注意すればいい。」

そんな言葉はどこかの無責任な大人と、バカ正直にセンセーの言うことを聞いているチビと、大人に気にいられたい偽善者だけが口にすることだと自分は思う。

注意したところで終わるかどうかも分からない、そもそも面倒くさいことには干渉しないことが1番だ。彼をいじめているのは自分も属しているグループなので、自分が少しでも「やめろ」といえば辞めるだろう。

しかし、そんな事をしてやる義理はないし、そもそも彼は助けを必要としているように見えなかった。

表向きはいじめに困っているように見えるが、彼は馬鹿にしていた。
いじめという行為をする人間なんぞ至極どうでもいい。
自分が相手にするに値する人間でない。
という風に。

全ては自分の推測だ。
確かめる術は無いし確かめたいとも思わなかった。
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