手が届かない向こうへ
棺桶の小さな扉を開くと、蝋人形のように血の気のないお兄ちゃんの顔が見えた。



これが本当にお兄ちゃん?



棺桶に横たわるのはよく出来た人形で、私の悲しむ姿を笑いを堪えながらどこかで見ているかもしれないと思い、辺りを見渡した。

みんな、沈痛な面持ちでいるばかり。



ああ、現実なんだ



それでも実感がない。

お兄ちゃんの頬に触れる。

感じたことのない冷たさに手が止まる。

生きていれば決して発する事のない冷たさ。

もう熱を発することのない体。

その時初めてお兄ちゃんが死んだのだと実感したのかもしれない。

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