囚われて、落ちていく
「はぁー」
行きつけの美容室に着き、待っている途中。
思わずため息が出た。

君島(きみじま)(都麦の旧姓)さん、お待たせ~
……って、結婚したんだよね?えーと、今は…」
引田が微笑みながら、呼びにくる。

「あ、はい!
今は“一条”になりました」

「一条……!?」
引田や他の従業員も、かなり驚愕し都麦を見た。
「え?引田さん?」
「あ、ううん。
ごめんなさい。えーと、じゃあ…シャンプーからね!」
「はい。よろしくお願いします!」

髪の毛をカットしながら、他愛のない話をする。
「………カッコいい~!ロン様~」
都麦が見ていた雑誌を見ながら、引田が言った。
「引田さんは、ロン様が好きなんですか?」
「えぇ、カッコいいもん!」
「フフ…確かに!」
「君島さ…あ、違った!一条さんは、好きな芸能人いないの?」
「いいですよ!君島で。
うーん。そうだなぁ…」

「引田さーん!電話ー」
「あ、はぁーい!
少し、待っててね!」
「はい!」

都麦は一人考えていた。
好きな芸能人いないのかと聞かれて“刹那”の顔が咄嗟に浮かんだのだ。

「私……どんだけ、刹那さんのこと好きなんだろ…(笑)」
スマホの連絡先をほとんど消されて、今日から毎日スマホチェックをされる。
しかも、ロックもするなと言われたのだ。

こんな酷い束縛をうけても、それでも……刹那が好きだと思う。
傍にいたい、放れたくないと思う。

「私って、バカなのかな(笑)?」
「………誰がバカなんですか?」
「へ!?
あ、遠堂(えんどう)さん。
ひ、独り言です……(笑)」
代表の遠堂が声をかけてくる。

「引田さん、電話長くなりそうなので、僕が代わりますね!」
「あ、はい。
………あ!」

【男には触らせないでね】
刹那の言葉を思い出す。

「へ?一条さん?どうしました?」
「あ、いや、えーと…遠堂さんはちょっと……」
「え?僕じゃダメですか?」
「あ、ダメと言うか……
あ!そうだ!さっき“一条”って名前聞いてびっくりされてましたが、何かあるんですか?」

「あー、一条さんの旦那さんのことかはわかりませんが、この辺や駅の周りやあと…向こうの商店街も、とにかく一帯全て一条不動産のモノなんです。
だから、もしかしたら奥さんなのかなって…!」
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