Memorable
返事をしたものの、秋久に荷物など持たせるわけにいかないと、奪い返すように手を伸ばすが、それを阻止された。

「古都」
ゆっくりと名前を呼ばれ、私は動きを止めた。
「でも、秋久様にそんなことをさせたら、父に……」
「いいか、古都。お前はもう俺の婚約者だ。その自覚を持て。俺とお前は対等だ」
対等。その言葉に私は驚き、目を見開いた。天と地ほどの差があると思っていた私たちが、対等と言われる日が来るとは思いもしなかった。

「昔を思い出せよ。俺にさんざん迷惑をかけていたころを」
柔らかな笑みを浮かべて私の頭をぽんと叩いた秋久に、嫌でも昔のことがよみがえる。

この大きな庭で、私は自分が「お姫様」だと思っていたあの頃。
秋久と正久に囲まれ、薔薇の冠を頭に載せてもらった、幸せな日々。封印したかった過去の思い出を呼び起こされ、どうしていいかわからなくなった。

「行くぞ」
少し強引に手を引く秋久。変わらない彼の背中を、私はいつも追いかけていた。
その手は、いつも私を救ってくれた。たとえ利用されていたとしても、今の私には成す術はない。

「はい」
静かに答え、秋久の手を握り返すと、彼は少し驚いたように私を見た。
しまったと思い、反射的に手を振り払ったが、その行為自体が問題だったかもしれない。だが秋久は何も言わず、スーツケースを手に歩き始めた。


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