Memorable

静かに車が停まると、中から落ち着いた紳士然としたスーツ姿の男性が歩いてきた。

「大友様、お帰りなさいませ」
柔らかで完璧な笑みと身のこなしから、この道のプロだと分かる。
「戻りました。古都、こちらコンシェルジュの金沢さんだ。話してあった妻の古都だ」
「奥様、どうぞよろしくお願いいたします」
金沢さんがにこやかに挨拶すると、私は慌てて頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
"奥様"という響きが信じられないまま、私は二人の会話をぼんやりと聞いていた。

「先ほどすべての業者の搬入も終わっております。問題ないかご確認をお願いいたします」
手に持っていたファイルを金沢さんが秋久に渡すと、秋久も確認してからうなずいた。

「古都、行こう」
その言葉で意識を戻し、一瞬遅れながらも、なんとか笑顔を張り付けて金沢さんに会釈をし、秋久と共に歩き出した。


「一番奥だから」