Memorable
そう尋ねようとしたが、不意に唇に秋久の指が触れた。その熱に驚いて目を見開くと、じっと私を見つめる彼のきれいな瞳があり、思わずドキッとしてしまう。

「あの……」
触れられたまま口にするも、秋久は何も言わず、ただ私を見つめ続けていた。
長年一緒に過ごしてきたのだ。秋久が何を言いたいのかは分かる。しかし、それがなぜか怖かった。だが、このまま触れられているのも限界だった。

「秋久」
静かに呼びかけると、秋久は昔のままの笑みを浮かべ、それに私は戸惑う。

「誰もいないよ。古都、料理できるだろ?」
「できますが、シェフのようには上手くできないと思います」
今までプロの料理ばかり食べてきた秋久に満足できる料理が作れるだろうか。大友の屋敷にも昔から料理人がいた。
そんな不安を打ち消すように、秋久はクスリと笑いながら私を見た。

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