Memorable
つい、かしこまって返事をすると、秋久はクスッと笑ってメニューに目を移した。

「アルコールも任せてくれる?」
「はい」
ずっと同じ返事ばかりしていることは自覚していたが、こんな豪華な場所に連れてこられて緊張しないわけがない。

「少しずつでいいから、慣れていけよ」
その言葉に、私はこれも仕事の一環だと理解する。これから秋久の役に立つために、パーティーなどに出席しなければならないのだ。
これぐらいの場で緊張していては、先が思いやられる。小さく息を吐いて気持ちを整えると、秋久に視線を向けた。

そのとき、にこやかに一人の男性が個室に入ってきた。

「秋久様、おめでとうございます」
「支配人、ありがとう。妻になる古都だ」
「初めまして。古都です。どうぞよろしくお願いします」
私は軽く頭を下げ、支配人も丁寧に腰を折って挨拶を返した。

「今日はごゆっくりお過ごしくださいませ」
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