Memorable
つい、いつもの言葉遣いが戻った私に、秋久はため息をついた。

なんとかマナーも無事にこなせたかな、そう思って安堵した私は、外の夜景に視線を向けた。キラキラと輝くビルの灯りが美しい。
こんな空間に自分がいることが信じられず、さらにはその目の前に秋久がいるという現実が、さらに非現実的だった。

私はそっと自分の手に視線を落とす。すると、もうひとつの手が重ねられ、その後、秋久の指がそっと手の甲を撫でた。
彼の指は私の手を優しく握りしめ、左手の薬指をキュッと摘んだ。

「秋久?」
私の問いに、彼は何も言わず、ただそのまま数秒間、私の指を撫で続けた。そして、突然彼はポケットから黒い光沢のある箱を取り出した。
それが指輪だということは、一目で分かった。箱の中身を想像せずにはいられなかった。

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