Memorable
それは激しいものではなく、ただ触れるだけのキスだった。拒むこともできたはずなのに、私はその甘い感触に身を委ねてしまった。
キュッと彼のシャツを握ると、秋久が私の後頭部を引き寄せ、キスを少し深めた。

まるで本当の恋人のように、大切にされている感覚に、私は泣きそうになってしまう。

唇が少し離れ、秋久が私を見つめる。
「ごめん」
私の表情を驚いたように見た後、秋久が私の目元を指でなぞった。
そこで自分が泣いていたことに気づく。
違う。キスが嫌なわけじゃない。そんな自分が怖くて、このまま流されてしまいたいと思った自分が信じられなかったのだ。
「頭冷やす」
そう言うと、秋久は私から距離を取る。
「違う……」
アルコールも手伝い、私の思考は完全におかしくなっていた。
私は秋久を引き寄せ、自分から唇を重ねていた。


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