幸せ太りした姉の代わりに新婦役を引き受けたら、姉の夫と見知らぬ男が取り合いを始めました
 案の定と言えばいいのか、動きづらいウエディングドレスを着て、足元も動きづらいハイヒールを履いた私の足取りは遅く、そんな私に歩幅を合わせている乱入者の足取りも遅かった。結果として、私達はすぐに式場のスタッフの追いつかれて、こうして止められたのだった。

「邪魔だ。そこをどけ」
「ですが……」
「邪魔だと言っている。おれたちの邪魔をするな!!」

 乱入者は静かに言い放つと、式場のスタッフを睨みつけた。大柄な乱入者の前では式場のスタッフも怖いのか、先程の芳樹さんと同じく及び腰になったようだった。その頃になってようやく、式場の警備員と一緒に芳樹さんがやって来たのだった。
 乱入者は舌打ちをした。

「おい」
「へっ……?」

 急に話しかけられて、やや間の抜けた返事をすると、乱入者は荷物を抱える様にして私を肩に抱き上げたのだった。

「きゃああ!」
「さすがに、この格好だと重いな……」

 そんなことを呟いた乱入者からは、汗のような臭いがした。緊張して汗でも掻いたのだろうか。
 それなら、こんなことやらなければいいのに……。

「掴まってろよ」
「ちょっと! まっ……」

 私の反論も虚しく、乱入者は式場スタッフに向かってタックルをするように駆け出す。
 急に大柄な男が走ってきたからか、式場のスタッフは声を上げて左右に避けてしまったのだった。
 誰も阻む者のいない中、そのまま乱入者は式場の出入口に向かって駆けて行く。
 乱入者のあまりのスピードの速さに、私は反論するどころか、舌を噛まない様に口を閉じているのが精一杯だった。
 後ろを向くと、今にも倒れそうな芳樹さんと、警察に通報する式場スタッフの姿が見えた。
 そうして、乱入者は私を抱えたまま、式場の外にある駐車場に向かったのだった。

 駐車場に停めていた大型車の後部座席に押し込まれると、私はすぐに車から出ようとした。
 しかし、それより早く乱入者は運転席に乗り込むと、扉をロックしてしまった。

「どこに連れて行くんですか?」
「約束した場所だ」

 それだけ言うと、乱入者は車のエンジンを掛けた。式場での騒ぎを聞きつけたのか、他の警備員たちが車に向かってくるのが見えた。
 乱入者はすぐに車を走らせると、駆け寄ってくる警備員たちを跳ね飛ばしそうな勢いでスピードを出して、式場を後にしたのだった。
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