稲荷寺のパラレル少女
何度も足をもつれされて転びそうになる。


しかし少女は立ち止まる気配も見せない。


ここで良介が転んだら、手をつないでいる少女まで巻き添えになってしまうと思い、必死で体勢を立て直す。


そしてあっという間に黄金色に輝く仁王増の前に到着していた。


良介は両膝に手を当てて大きく肩で呼吸をした。


いつものように参道ダッシュをしたわけじゃないのに、ひどく疲れて汗が滲んでいる。


手の甲で汗をぬぐい、英也と大輝の姿を探そうと周囲を見回してみるが、2人ともまだいない。


どうやら良介が一番最初に到着したみたいだ。


とうことは、2人が到着するまでこの少女と2人きり。


良介はゆっくりと視線を上げて、少女を見た。


少女は相変わらず微笑んでいて、少しも息を切らしていない。


「あ、あの、君は?」


勇気を出して質問してみたのだけれど、少女はそれに答えず再び良介の手を掴んで歩き出した。
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