稲荷寺のパラレル少女
また、質問してはいけないことだったろうか?


不安を感じたとき、稲荷が口を開いた。


「それはできないの」


その声はとても苦しそうだった。


まるで、酸素がない世界で必死に声を発したような感じ。


かすれて、重々しい声。


「どうして?」


「私は神様の遣いだから、勝手な行動はできない。ただ、平行世界への行き来は許されていたから、こうしてあなたを連れてきたの」


「じゃあ、神様に指示を出してもらうようにお願いしてみたら?」


良介の言葉に稲荷はまたうつむいてしまった。


「できないの。私たちが忘れられるということは、神様も忘れられるということよ」


良介は一瞬目を見開き、そして左右に首を振った。


「まさか、この町の神様はもういなくなってしまった?」
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