稲荷寺のパラレル少女
「まだいる。だけどその力は昔よりずーっと弱くなっていて、私たちに指示を出すこともままならない」


稲荷はそう言うと下唇をかみ締めた。


稲荷にとっては自分の生死が関わっている危機的状況みたいだ。


それなのに自分のことを気に欠けていることが、余計に不思議だった。


「それに、こちらの世界のあなたになにかが起これば、あなた自身にもなにかが起こるかもしれない。そんなの嫌でしょう?」


稲荷は気を取り直すように話題を戻した。


「あぁ、そうだね」


そう言われるとうなづくしかなかった。


膝の絆創膏は同じ場所にあった。


こちらの世界の自分がひどい目に遭えば、自分自身にも降りかかってくるかもしれない。


それを阻止するのは、自分自身。


どうやら自分がここから逃げることはできないようだ。


稲荷の巧妙なやり口にため息を吐き出して「わかったよ。俺が俺を助ける。それでいいんだろう?」と、聞いた。


稲荷は満面の笑みを見せて、うなづいたのだった。
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