稲荷寺のパラレル少女
「学校の近くには公園や広間がある。今まではそこで遊ぶことが多かったみたいなのに、どうして今日は踏み切りなんかに」


そう言われれば、学校帰りの約束場所としては少し妙かもしれない。


学校の近くの公園からここに来るまで歩いて10分はかかった。


そんなところで待ち合わせをするよりは、学校が終わってすぐ集合してそのまま遊びに行ったほうが早い。


「嫌な予感がする」


良介は呟いた。


そして、嫌な予感とは当たるものだと祖母が言っていたことを思い出していた。


「念のためにこれを」


そう言って稲荷が差し出してきたのはキツネのお面だった。


縁日なんかでよく見かけるやつだ。


「自分と鉢合わせするのを防ぐためよ」


そう言えば、鉢合わせしてしまうと世界が壊れてしまうんだっけ。


お面をかぶって誰だかわからなくすれば大丈夫みたいだ。


「ありがとう」


俺はキツネのお面をありがたく受け取り、視線を道路へと戻した。


今立っている道路もビルからビルにまたがるように、空中にかけられているものだ。


自分の世界で言う橋のような道があちこちにかかっている。


見るものすべてが新鮮だったが、犬を散歩されている人とか、公園でグランドゴルフをしている老人とか、ベランダの洗濯物は何一つ違わない。


基本的な生活は同じなのだということがわかった。


こっちの世界の自分はどこの部屋に暮らしているんだろう?


ふと、興味が沸いた。
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