稲荷寺のパラレル少女
こちらの世界の自分が踏み切りに近づき、足を止めた。


ひっきりなしに周囲を見回していつ2人が来るかビクついているのがわかった。


そんな怖いなら約束場所になんて来なければいいのに。


そう思うのはきっと自分がイジメられていないから。


一方的に押し付けられた約束でも、それを破ったらどうなるか、こちらの世界の自分はその後の恐ろしさを理解しているのだ。


「俺、ちょっと行ってくる」


「え、ちょっと!?」


驚いて引きとめようとする稲荷を置いて、お面をかぶった良介は植木から飛び出した。


イジメを止めるために英也と大輝の2人を待っている必要はない。


こちらの世界の自分のおびえている姿だって、これ以上見て痛くなかった。


良介は真っ直ぐ自分へ向けて歩き出した。


お面さえしっかりとつけていればなにも心配はいらない。
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