稲荷寺のパラレル少女
「え?」


こっちの良介が瞬きをして聞き返す。


「今日の約束はキャンセルだって」


そう伝えると自分は一瞬目をうろうろさせて、それから「そう」と呟くように言い、良介に背を向けた。


良介の言葉を信用したのかどうかはわからない。


しかし、これは逃げられるキッカケになったと感じたのだろう、こっちの良介はまさに逃げるように帰って行ってしまった。


良介はその後姿が見えなくなるまで見送ると、キツネのお面を外した。


仮面の奥は息がしづらくて熱がこもっていた。


仮面を外した良介は大きく深呼吸をした。


そのタイミングで「よぉ、逃げずに来たんだな」と、英也の声が後方から聞こえてきた。


来たな。
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