稲荷寺のパラレル少女
英也の掛け声を合図に走りだした。


しかしすぐに失速して、参拝客らに押し戻されてしまう。


「こんなの無茶だって」


勢い良くスタートを切った英也も同じような状態だった。


それでも人々を押しのけて無理矢理前へ進もうとしているから、後ろから大輝に引き止められている。


良介はのろのろと進む参拝客の後ろについて歩きながら呟いた。


隙間を塗って走ることも考えたが、参堂の途中には階段もある。


それに杖をついて歩くおじいさんの姿も見てしまい、とても走る気にはなれなかった。


「なぁ、やっぱりやめようぜ」


そう言って振り向いたときだった。


英也と大輝の2人がわき道へとそれて走り出す姿が見えた。


この参道にはいくつかのわき道があり、そこを入ると人はパタリといなくなる。


しかし上まで続いているわき道も沢山あるのだ。


観光で来た参拝客は知らないが、地元の良介たちはよく知った道だった。


それを使ったのだ。


「おっさきー!」


英也が意地悪そうな笑みを浮かべ、片手を挙げている。


あっ!
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