稲荷寺のパラレル少女
「大丈夫だよ。向こうは正月休みで、自由にしてたところだから」


良介は早口にそう言って、稲荷の頭を上げさせた。


それでも稲荷は落ち込んだ表情を崩さず、耳もシッポもうなだれている。


「そういえばこっちの世界はお正月じゃないみたいだね? 学校も普通に授業をしていたし」


気を紛らわせるために話題を変えた。


「えぇ。正月やお盆と言った行事は私たちキツネと同じで、消え行く行事なんです。変わりに2週間ほどの大型連休が年に何度も取られるようになりました」


「へぇ」


良介は驚きで目を丸くした。


大型連休が沢山あるのは羨ましいと感じる。


けれど、お正月まで消えていきそうだなんて思ってもいなかった。


そういえばこの本殿に来るまでに人の姿は1人見なかった。


手入れは行き届いていたけれど、キツネたちがやっていることなのかもしれない。


人間はもはや神様を信じず、それに関するものもすべて無くなるのだろうか。


そう思うと、途端に胸に穴が開いたような寂しさを感じた。


自分たちの暮らしている世界ではまだ息づいているものが、こちらでは廃れて消えようとしている。


「ではまた明日。朝ごはんの準備ができた頃に起こしにきますね」


キツネはうやうやしく頭を下げて、部屋を出て行ったのだった。
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