稲荷寺のパラレル少女
☆☆☆

すべてが夢だったのではないか。


この心地いい高級ベッドのような布団から起きたとき、現実世界に戻っているのではないか。


そう思った良介を起こしたのは、母親の声ではなく、稲荷の声だった。


「良介さん、朝ごはんの準備ができました」


襖の向こうから聞こえてきた鈴のような声に飛び起きる良介。


「わ、わかった。すぐに行くよ」


慌てて返事をしてから大きく息を吐き出す。


どうやら自分が昨日経験したことは夢でも幻でもなかったようだ。


見知らぬ和室の中を見回して、今度は小さくため息を吐き出した。


昨日良介はこっちの世界の自分を助けた。


イジメなどというものを兆越した殺人未遂。


それに、友人2人の変色した目も気になる。


できればこっちの世界の自分にもう少し頑張ってほしいけれど、うつむいて背中を丸めて歩く姿を思い出すと期待することはできないと察する。


「よし、とにかく行かなきゃ」


良介は自分の両頬を叩き、しっかりと目を覚ましてから部屋を出たのだった。
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