稲荷寺のパラレル少女
☆☆☆

空中を渡っている歩道を歩き、どこまでも続いているような石段を上がり、ビルの隙間を抜けて、英也はようやく足を止めた。


さっきまでいた学校を眼下に見るその場所はビルの屋上だった。


と言ってもここよりも高い建物はいくらでもある。


「ここは?」


貯水槽の影に身を隠して、良介は小さな声で稲荷に聞いた。


「ここは……」


稲荷はそれっきり黙りこんでしまった。


後ろにいる稲荷に視線を向けると、稲荷は大きな目を更に大きく見開き、口をポカンと開けて英也の様子を見つめている。


ひどく、なにかに驚いている様子だ。


「どうしたの?」


稲荷の肩を叩いて聞くと、ハッと我に返って瞬きをした。


「こ、ここは裏鬼門ですね」


「裏鬼門?」


「そうです。あらゆることを避けたほうがいい方角のことを言います」
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