稲荷寺のパラレル少女
それは良介も聞いたことがあった。


「だから鳥居が建ってるのか」


ここはビルの屋上なのに小さな鳥居があり、その横には注連縄が巻かれた大きな岩が鎮座していた。


英也は今その岩の前に立っている。


「だけど、裏鬼門なども忘れ去られる存在のひとつです。こんな風にわざわざ拝みに来る人がいるなんて」


「でも、それは別に不思議じゃないだろ? こっちの世界の俺だって、お稲荷さんをお供えに来てるんだから」


「えぇ、それは、まぁ」


それでも稲荷は煮え切らない表情を浮かべている。


「なにがそんなに気になるんだよ?」


「あの岩です」


稲荷は注連縄が巻かれている大きな岩を指差した。
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