稲荷寺のパラレル少女
人の気配に驚いて歩調がゆるむ良介。


その隙を見計らったように英也は良介の体を羽交い絞めにして、手すりから突き落とそうとしたのだ。


「なにするんだ!」


ちからづくで持ち上げられた良介が真っ青になって叫ぶ。


しかし英也は力を緩めず、ジリジリと手すりの向こうへと良介の体を落とそうとしている。


その光景は信じられないものだった。


だって、良介も英也も大して力は変わらない。


身長も体重も似ているし、学校の体力測定だって同じような数値が並んでいて、2人して笑い会ったことがあるくらいだ。


その英也が、今まさにこっちの世界の自分を突き落とそうとしているのだ。


全身の毛穴が逆立っていくのを感じた。


こんなことありえない。


ここまでの力が出るなんて信じられない。


でももしも、英也自身の命が関わっているとしたら?


それとも、あのモヤに操られているとしたら?


これくらいのバカ力が出るかもしれない。


英也はあのモヤに言われたことを実行しようとしている。
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