稲荷寺のパラレル少女
☆☆☆

「でもあれはたぶん、クラスのヤツの仕業だったんだ」


良介はそう言うと下唇をかみ締めた。


犯人を捕まえることができなくて心底悔しそうだ。


「そうか。家にいても安心できないから学校に来てたんだな」


ひどくおびえながら登校してきている理由はわかった。


こっちの世界の自分には安心できる場所がないのだ。


早く解決してあげないと、心が疲弊してしまうかもしれない。


そう思って顔を上げたとき、空気が濁っている感じがして良介は咳き込んだ。


見上げてみると町全体がうっすらとモヤがかっているように見えた。


元の世界で言う、花粉とか、黄砂とか、そんな感じだ。


「モヤが町中を覆いつくしてきてる」


稲荷が呟いて、良介は隣に座っている自分の顔を見つめた。


その目は灰色になっていない。


想像通り、こっちの自分にもモヤの効果はないようだ。


「とにかくあなたは一旦家に戻って。なにかあったらすぐに逃げるのよ?」


稲荷に言われてこっちの世界の良介はうなづいて立ち上がった。


「あ、あの稲荷さん、キツネ面さん。助けてくれてありがとう」


ペコリと頭を下げて、逃げるように公園を出て行く。
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