稲荷寺のパラレル少女
「大倉先生?」


声に聞き覚えがあった良介が呟く。


その呟きが聞こえなかったようで、ガスマスクの人物は更に良介へ向けてナイフを振り上げた。


「大倉先生!!」


頭上にナイフを振り上げられた瞬間良介は叫んだ。


途端にガスマスクの人物の動きが止まる。


「やっぱり、大倉先生ですね。この岩を割ったのもあなたですか?」


「……そうよ」


マスクの奥からくぐもった声が聞こえてきた。


「どうしてそんなことを! この岩を割ったらどうなるか、わかっていたんですよね!?」


「この岩を割ると、押し込められていた怨霊たちが出てきて、ここを死の町にしてしまう。人々は怨霊に操られ、行きながらにして意思を失い、死んだも同然になる。私は母からそう教わったわ」


「それなのに、どうして!?」


大倉の笑い声がマスクの奥から聞こえてくる。


ナイフの切っ先は再び良介へ向けられていた。


「どうせあなたのことは殺してしまう。だから特別に教えてあげるわ。私たち家族に起こった、悲しい出来事をね……」
< 83 / 106 >

この作品をシェア

pagetop