稲荷寺のパラレル少女
☆☆☆

大倉先生の祖母、キミコさんが漁師の彼氏との間に子供をもうけたのは19歳のときだった。


若いくしての結婚は珍しくない時代だったため、キミコは喜び勇んで港に戻ってくるはずの漁船を待っていた。


お腹に子供ができたというと彼はどんな顔をするだろうか。


きっと喜んでくれるに決まっている。


落ち着かない気持ちで漁船を待ったが、いつまで待っても戻ってこなかった。


やがて海上警察が出動し、翌日の朝には転覆した漁船が発見された。


恋人は船から投げ出され海の底にいたところを引き上げられた。


どうしてこんな事故が起こったのか、なにか色々と説明されたがキミコの耳には少しも入ってこなかった。


恋人が死んだ。


自分のお腹に子供を残して死んだ。


その事実があまりにショックで、立ち直るまで数日を要した。


しかしどれだけ厳しい現実があろうと、お腹の中の子供成長は止まらなかった。
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