稲荷寺のパラレル少女
つわりがひどかったこともあり、妊娠していることはすぐに周囲に知られることになってしまった。


「私は生みたいの」


キミコの両親は漁師の彼のことも良く知っていた。


いずれ結婚するだろうということも、口にしていた。


だからてっきり賛成し、手伝ってくれるものと思っていた。


しかし、両親の口から出てきたのは信じられない一言だった。


「許さん」


腕組みをして、難しい顔で目を閉じた父親はそう言った。


「え?」


「父親のいない子なぞ、産むことは許さん」


キミコの頭の中は真っ白になった。


あれだけ彼のことを気に入っていたのに、どうして?


そんな質問が喉まででかかった。


それに、これは人に恥じるような妊娠ではない。


誰の子か公言できないわけでもない。


それなのに、なぜ?


隣にいる母親はふきんで顔を覆ってずっと泣いていた。
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