稲荷寺のパラレル少女
キミコは父親の言葉が信じられず、家を飛び出した。


はだしでかけて、彼の家へと向かう。


彼の家は海岸沿いにあり、家族はキミコとも面識があった。


「お願いです、彼の子を産みたいんです」


キミコは彼の家族にも同じように事情を説明し、そして自分の親に反対されていることを説明した。


「それは本当に息子の子供なの?」


相手の母親に言われた信じがたい一言。


「はい。確かです」


キミコがなんどそう言っても相手は嬉しそうな顔ひとつしなかった。


このとき初めて自分の妊娠は誰にも望まれていないことだと理解した。


自分の家族にとっても、彼の家族にとっても、お腹の中の子は必要とされていない。


だけどキミコにとっては違った。


この子は彼の血を引いた子供なのだ。


この子を守れるのは自分しかいない。


絶対に誰にも殺させやしない。


そう誓ったキミコは子供を守るために、ひとりで町を出た。


まだスマホなどの通信手段のない時代だ。
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