稲荷寺のパラレル少女
誰もキミコの行く先を突き止めることはできなかった。


そうしてたどり着いたのが、この町だった。


この町に来てボロアパートを借り、そして女の赤ん坊を産んだ。


子供の名前はヨシコと名づけられて、キミコと周りの人たちによって大切に育てられた。


思い切って家を出てきてよかった。


ヨシコはすくすくと成長して、キミコもどうにか簡単な仕事につくことができた。


裕福な暮らしではなかったが、あのままヨシコを堕胎することになることを考えると、遥かに幸せな暮らしができていた。


しかし、それすら長くは続かなかった。


「ねぇ、お母さんは自分のお母さんを捨てたの?」


ある日の夕飯時、ヨシコが突如そんな質問をしてきたのだ。


欠けた茶碗にご飯をよそっていたキミコは動きを止め、目を丸くしてヨシコを見た。


「どうしてそんなことを聞くの?」


「隣のおばちゃんが言ってた。お前のお母さんは両親を捨てて来たんだって」


いくらスマホがなくても、情報は千里を歩く。


ついにキミコの噂はこの町にも到達してしまったのだ。
< 87 / 106 >

この作品をシェア

pagetop