トライアングル的極上恋愛〜優しい沼に嵌ってもいいですか?〜
「俺は、高校までは京都で暮らしたけど、大学はイギリスにした。
マミーに会いたかったし、この息苦しい街から解放されたかったしね」
少しの間、沈黙が続く。
俺にとっては大した話じゃないけれど、馨月亭で働くさくらにとっては驚く話なのだろう。
「で、でも、専務はここへ帰ってきた。
馨月亭を継ぐために…
そ、それでよかったんですか?」
それでよかったんですか?という問いは、俺の心に優しく響いていく。
さくらのその問いかけは俺の中の選択する意思を尊重してくれている、そんな思いやりが感じ取れた。
「それでよかったんだ…
俺が自分で決めた事だから」
さくらは小さく頷いた。
「私は平凡な家庭に生まれた人間だから、専務の心の中は全く分かりません。
生まれ落ちたその瞬間から、大きな荷物を背負ってしまう。
専務は、特に、直系の家柄だから…
あ、ごめんなさい…
唱馬さんからも、専務の家柄の凄さを聞いたりしていたので」
俺は鼻で笑った。
唱馬だって、大して変わらない。
馨月亭を守っていく人間として生まれ落ちた事に関しては。