小さな願いのセレナーデ
「一応コンサートですからね」
「すごく似合ってるよ」

ふっと彼が口角を上げると、私の頬は真っ赤に染まる。
(恥ずかしい……)
思わず視線をそらすと直後に奏者が出てきて、その気持ちはコンサート前の高揚感に紛れてしまった。



コンサートの終了後、何となく二人で近くにあったバーで飲むことになった。
彼からは大学の音楽科のこと──各大学の特色やレッスン内容、先生の話など を中心に、色々と聞かれた。
最初は挙動不審な感じだったが、彼が会話を途切れないように上手く喋ってくれるお陰で、二杯目のお酒が入った頃には、お互いを名前で呼ぶほど打ち解けることができた。

「えっと晶葉は高校から桐友学園の音楽科で内部進学なんだよね。留学したことないの?」
「はいそうです。このウィーンが初めてで」
「そうなんだ。ウィーンはどう?」
「いやぁ、すごく楽しいです。偉人と同じ景色を見てるんだなって思うと感慨深いです」
「なるほどね」
「ちなみに昂志さんはウィーン何回目ですか?」
実は何回も来ている、と言った後に少し照れながら「そもそも父がオーストリア人の血を引いていてね」と。

「そうなんですか。クオーター?ですか?」
「いや、ワンエイスだね」

つまり八分の一。だからあんまり日本人と違わないと思うけど、とも。
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