小さな願いのセレナーデ
番外編:兄と私と、先生と
「はいストップ」
バイオリンを演奏中、曲の半ばでストップがかかった。
「ここの右手首、もうちょっと柔らかく。ここのスラーの時は、ここの音に合わせて指を伸ばすのを意識して。いつもこことここのD線の音がはっきりしないから、そうすると良くなると思う」
「はい……」
横から出てきた手は、楽譜にしるしを書いていく。流れるようにスラスラと手を動かしながら。
「前腕の意識がこの辺が特に飛ぶから、もう一度注意してやってみましょうか」
「最初から…?」
「はい、最初から。お願いします」
「……はい」
今日もまた容赦のない指摘が飛んでくる。
私が週二回指導を受けている晶葉先生は、見た目は柔らかい雰囲気でいかにも優しい先生という印象だけど、見た目とは裏腹に、結構指摘は細かくて厳しい。だけど的確で、無駄がない。
よく演奏家にある抽象的な「~のイメージで」というような言葉は使わずに、わかりやすい具体的な言葉で説明してくれる。だから私としては、イメージがすごく掴みやすい。
何人かの先生の指導を受けたけれど一番わかりやすい指導で、本当に先生という職業に向いてる人なんじゃないかなと思っている。
いつも楽しい…けれど必死に過ぎてくレッスン時間は、あっという間に終わってしまう。