小さな願いのセレナーデ
翌日、私は緊張で震えながら、とある建物の前に立っていた。

(き、来ちゃった……)
それもそのはず、ここはクラシックの殿堂であるウィーンの楽友協会だ。
暖色系のライトアップが、より歴史のある建物の重厚感を増していた。


実はウィーンに来たばかりの頃、ガイドツアーで一度訪れている。
その時はホールの豪華さに圧倒されて……是非とも帰国前に、一度でもコンサートを見てみたいと思ったのだ。
それがまさか、こんな形で…しかもウィーン・ハーモニック管弦楽団という世界最高峰の演奏が聞けるなんて。正直今でも騙されているのではないのだろうかと疑っている。

覚悟を決めて建物内に足を踏み入れる。エントランスロビーは、普通の劇場に比べると狭い造りで、開演前の人でごった返していた。ふと天井を見上げると、金箔を使った天井の装飾がまばゆく煌めく。
ただそれより眩いのは……階段の先にある、黄金の間と呼ばれる大ホールだ。
黄金に輝く列柱に、天井の鮮やかな絵画が、黄金の額縁と共に観客席を見下ろしている。
ちなみにニューイヤーコンサートで世界中に中継されている場所なので、クラシックを知らなくても知っている人も多いと思う。
< 14 / 158 >

この作品をシェア

pagetop