小さな願いのセレナーデ

私達二人は、テイクアウトしたコーヒーを片手にベンチに座っている。彼からせっかくだから少し話さないかと誘いがあったのだ。

ここはマルガレーテンプラッツという場所で、古い建物が建ち並ぶ通りの一角。
広い歩道に街路樹とベンチが並び、憩いの広場にもなっている場所だ。

ベンチに腰かけると、お互いに軽い自己紹介が始まった。
彼の名前は久我昂志(くがこうし)で、日本在住の会社員。歳は三十歳らしい。
そして私、下里晶葉(しもさとあきは)は……

「えっ?本当にプロのバイオリニストなの?!」
私の自己紹介をすると、彼は目を丸くして驚いた。

「とは言っても、あんまり大手とは言えない楽団ですけどねぇ…」
「いや、でも凄いね。プロオーケストラにはどの団体に入るだけでも相当苦労するって聞いたことがあるよ」

私は彼に凄いと言われて、少し萎縮する。
「いや、たまたま運が良かったんですよ。前年にバイオリニストの退団が多かったのと、お世話になった先輩が入団していたので、私を推しやすかったみたいです」
とは言っても、少し嬉しいのも本音だ。
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