小さな願いのセレナーデ

「やーなーの!」
碧維はまた玄関で暴れている。
毎朝この家を出る前の戦い、靴を履かせる戦いが始まった。

「ほらできた。じゃぁ行こ…」
「やーだ!」

また次のイヤ攻撃。ベビーカーイヤ攻撃が始まる。もはやこれは毎朝の風物詩。

「そっか嫌かー、じゃあ抱っこしようか」

結局私は、畳んだベビーカを片手で引っ張りながら、暴れる碧維を抱っこして家を出る。案の定、マンションを出る頃には「のる!」と騒ぐので乗せた。これも毎朝の風物詩。

そのまま徒歩十分、職場との中間地点にある保育園に到着。
少し保活に出遅れたことがあり、入れた園は小規模の二歳児クラスまでの園。小さなマンションの一階ワンフロアで園庭も無い。だけど先生は優しくていい人たちばかりで、碧維も毎日楽しそうに通っている。ちなみに園の隣が小さな公園になっているので、ここが園庭代わりのようだ。


「碧維君、おはよう!」
ベビーカーを置き保育園のドアを開けると、担任の先生が元気よく迎えてくれた。
碧維も先生が好きなようで、いつも一度も振り向かずに行ってしまう。

「お預かりしますね」
「よろしくお願いします」
「碧維君、バイバイは?」

そう先生が言うが、もう碧維は夢中になって遊んでいる。
私は「よろしくお願いします」と頭を下げて、碧維の着替えなどをロッカーに補充して、保育園を後にした。

< 31 / 158 >

この作品をシェア

pagetop