小さな願いのセレナーデ
そのまま歩いてすぐ。そこに私の母校、桐友学園大学がある。
一応音楽科の中、特に私立の中ではトップクラスの大学だ。
私はそこの校舎…ではなく、隣にある建物に入っていく。
ここが私が講師を勤める、桐友学園音楽教室の建物だ。


「皆さん、おはようございます」
朝十時、私はあの建物……ではなく、歩いてすぐの、自治体が経営するホールの一室にいる。
この日は自治体が主導で行っている、バイオリンのカルチャースクールの講師。一流の人から学べると好評らしい。昔バイオリンをやっていたという人を対象に、五人ぐらいのグループを見ている。

今日はこの後、ご夫婦でバイオリンを始められたシニアの方に、自宅まで出張レッスンの予定。午後には本部に戻って、幼児クラスと小学生のレッスンが十七時まである。
一応うちの教室は場所さえあれば出張レッスンをしていて、私はどちらかと言うと一般の人向けのクラス──特にシニアクラスの、出張レッスンの比率が他の人より多い。
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