小さな願いのセレナーデ
私は桐友(とうゆう)学園大学音楽科のバイオリン専攻科を卒業後、東京セントラル交響楽団と言うプロオーケストラに入団した。今は二十六歳、入団四年目。
東京セントラル交響楽団は物凄く有名所という訳ではないが、一応数少ないオーケストラ連盟に加入する、立派なプロの楽団だ。

そんな私が、ここウィーンに居る理由は短期留学の為。
しばらく私の出演予定の公演がなく──その事を降り番と言うのだが 偶然その降り番の期間に、ウィーンの音楽大学で、私が是非とも習いたいと思う先生の講習会があったのだ。

この講習会は音楽大学の中では一般的で、今後の長期の留学で師事する先生を探すことを目的に参加する人が多いが、私のように研鑽を深めスキルアップの為に参加する人もいる。
なので私が『是非とも行かせて欲しい』と楽団に相談したところ、大歓迎と言わんばかりに休暇を貰えることになり、ここウィーンにやってきたのだ。


「ちなみに久我さんはなぜウィーンに?」
「仕事でね。今日はちょうど午前中に仕事が終わったから、あそこに行ってみようかなって」
「そうなんですね」
「君もあそこに行ったってことは、シューベルトが好きなの?」
「あ、はいそうです。シューベルトが一番演奏していて楽しいんですよね。色んな解釈ができて。久我さんもシューベルトが好きなんですか?」

そう問いかけると、何故か少し苦笑いの表情を浮かべている。
< 4 / 158 >

この作品をシェア

pagetop