小さな願いのセレナーデ
いつもの調子
そのまま車内は無言のまま、保育園の近くに到着。裏にあるパーキングに車が止まった。

「ありがとうございました」
トランクを開けてもらい、バイオリンを受け取って、深々と頭を下げる。

「マンションまで送る」
「チャイルドシートが無いから……」

私は一切振り返らずに、保育園に入っていった。


「帰るよ」
「イヤぁ!」
「靴下履いて」
「イヤ!イヤー!」
今日の碧維は荒れている。
どうやら昼寝が少し短かったらしく、疲れてるかもとのことだ。

何とか無理矢理靴を履かせて、イヤイヤを連呼する碧維を引っ張って保育園の外に連れていく。
ふと駐車場が目に入ると、まだ彼の車は止まっていて、こっちの様子を見ていることに気付いた。

「ちょっ……碧維!」
ベビーカーをセット中にも、碧維は隣の公園に走っていく。そのまま駆け回る碧維を追いかけるが、捕まえた傍から振り切って逃げていく。

「いった……」
走ってる途中──ズキッと刺す痛みが、頭を襲う。
そのまま視界が歪んで、痛みと共にぐちゃっと握られたように気持ち悪い感覚が襲った。

「碧維、だめ……!」
碧維はジャングルジムを登っていく。
恐らくあの高さは一人で降りられない。
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