小さな願いのセレナーデ
本当は絶対に断るべきだ。
だけどこの気持ち悪い頭痛──何度も続くこの痛みの中、一度は誰かに甘えたい気持ちがあった。
それにほんの少し、父親を知らない碧維に申し訳なさがあった。少しでも、実の父の存在を感じて欲しかったのだ。


炊飯器からお米をよそう様子を見ていると、自然に瞼が下がってきて…目の前が真っ暗になった。碧維のはしゃぐ声を、少し遠くに聴きながら。


(あれ……?)

おそらく少し寝ていたのだろう。
じんじん頭は痛むが、さっきよりも大分マシにはなっている。
散らかったリビングはがらんとしていて、見回しても誰も居ない。なぜかブォーという機械音だけ遠くに響いている。


「ママ!ママぁ!」
しばらくすると、パジャマ姿の碧維が飛び込んでくる。頭からは石鹸のいい匂い。


「あれ?どうしたの……」
「ごめん、カレーひっくり返したからシャワーだけ浴びさした。パジャマはそこにあったやつで良かった?」

恐らくだが、朝格闘して脱ぎ捨てたまま、リビングに転がっていたパジャマだろう。
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