小さな願いのセレナーデ
「……ありがとう」
ぐちゃぐちゃのままだった筈だ。
部屋もそうだし、きっとだらしないと思ったんだろうな…と少し恥ずかしい。


「頭痛どう?大丈夫」
彼は私の額に手を当て──本当にびっくりしたが距離を詰めて、何の抵抗もなく額に触れた 。
目の前に彼の顔がくる。
あの綺麗な目に、吸い込まれそうで時が止まる。


「……薬、効いてきたから大丈夫」
振り切るように、やんわりと手を払い除けた。
だけど心臓はドキドキと、早い鼓動を刻んでいる。


「よくあるのか?」
「今週はちょっと、忙しかっかたら……でも大丈夫、大分よくなったし、寝てたら治るから」

もう帰って、といいかけたが、彼は立ち上がると再び台所の前に立った。

「晶葉も、何か食べる?」
「いいよ……別に」
「雑炊ぐらいなら作るから。卵あったな…」

調味料入れに放り込んでいた、袋に入っている出汁昆布を鍋に入れて、コンロにかけている。
昆布から出汁を取るなんて、離乳食以来。あまり彼は料理をしなさそうに見えるが…何故か彼は慣れているようで、てきぱきと準備をしている。
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