小さな願いのセレナーデ
「料理作れるんですね」
「まぁ、ずっと瑛実の面倒見てたからなぁ。オムライスとか、ホットケーキとかよく作ってた」
「あなたが?」
普通は母親か……今も家政婦さんがいたから、過去にも家政婦さんがいたはずだろう。

「瑛実の母親は国際弁護士やってるんだ。だからあんまり家に居ないし、昔ハウスキーパーとトラブルあって、ユキさん来てくれるまで俺がずっと面倒見てた。瑛実が幼稚園の時だな」

さすがにおむつは替えたことないけどな、とは付け足して。
あぁ、だから子供の世話は手慣れているのか…と納得するが。


「……あいつは来ないのか?」
「あいつ?」
「あの男」
きっと秀機君のことだろう。

「……たまに来るよ。そのパウポリスのおもちゃ、買ってもらったの」

まぁ彼がたまに来るのは本当で、碧維は買ってもらった大きなパトカーのフィギュアを、「ぶ~ん」と転がして楽しそうに遊んでいる。


「……そう」
彼はそっけなく返事をして、鍋の中にご飯を入れた。
こっちを見ずに、鍋をずっとかき混ぜている。


「あの、あなたはいいの?」
「仕事は大丈夫」
「いやあの、恋人に知られたら………」
「居ないよ」
「えっ……だって丸戸不動産のご令嬢と婚約って……」

あの日テレビでは、確かにそうニュースが流れていた。
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