小さな願いのセレナーデ
女優であり丸戸不動産の役員の娘、確か名前はミアと言ったか。彼女の結婚相手として、彼が紹介されていた。
コメンテーターが、所詮政略結構だろうと。
事業を拡大したいホテルソーリスオルトス側と、新規開発事業で提携を結びたい丸戸不動産側との利害の一致。だけど美男美女で絵になるとやけに褒めていたのを聞いていた。

「……信じたの?」
彼の無機質な、冷たい声が響いた。

「えっと、そういう訳じゃない、けど」
「結婚報道は出てないだろ、二年間」
「そうだけど…」
「うまく行ってたら、何であんなに邪険に扱う?」
「邪険……?」
「何でお前と付き合ってるとわざわざ言うんだ?」
「……へっ?」

あぁ、とあの人を思い出す。
あのホテルでキンキン声をあげてた女性かと。
テレビは子供向け以外全く見ないから、まったく気付かなかった。


「結婚を打診されてたのは本当。俺抜きで話は進んでたけど、娘を差し出す馬鹿と仕事する気は失せた」

聞いたことのない、彼の冷たい声が響き渡った。
思わず背中を、じっと見つめてしまう。

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